波多神社祈年祭

  • 祭り:波多神社祈年祭
  • 開催日時:2月17日に近い日曜日
  • 開催地:波多神社(三重県津市一志町八太1187)
  • 生物:ヌルデ
  • 流域:雲出川中流

 

波多神社の祈年祭
 波田神社の祈年祭(五穀豊穣などを祈る神道の祭祀)は、2月17日に近い日曜日におこなわれます。神事の際には、祭神である宇賀神(うかのかみ)、天水分神(あめのみくまりのかみ)、稲倉魂神にそれぞれ供えるため、3つの膳が3セット用意されます。この祭りは、もともと例大祭(その祭神や神社にゆかりのある最も重要な祭り)でしたが、明治時代に祭日の変更、合祀(ごうし:神社の合併)がおこなわれ祈年祭となりました。しかし、神饌の様式は大きく変わりませんでした。
 この神事での神饌には、湯通しした牛蒡や大根等の野菜類、榧や栗の実、ムツの干物等があります。1セットの御膳には、白膠木(ヌルデ)、杉(スギ)、稲藁(イナワラ)の箸が用意されます。ヌルデの箸は、約50cmのものと白膠木楊枝と呼ばれている約13cmのものが作られます。また、イナワラは、稲穂を取り除き茎のみの状態のものが用意されます。

出典:三重 祭りの食紀行_千種清美


〇ヌルデ
 ヌルデはヒマラヤ地域からモンゴル、中国、朝鮮半島、インドシナ、日本に分布しており、日本では北海道の石狩平野以南から琉球の山野に自生しています。ウルシ科であるヌルデは、日の光を好む陽樹であり、人の生活に身近な林や空き地でも見ることができます。ウルシ科ではありますが、かぶれる原因となる成分は少なく、生活にも用いられました。
別名にシオノミとフシノキというものがあります。シオノミとは、ヌルデの実が塩辛く、一部の地域で塩の代用とされた事から塩の実といいます。またフシノキは、ヌルデに寄生するアブラムシが葉に虫こぶという瘤を形成する事が由来です。この虫こぶにはタンニンが多く含まれているため、薬や染料、お歯黒などに用いられました。
 葉や実だけではなく、材は特に神事や仏事で用いられます。岐阜県本巣市の根尾樽見にある白山神社では、波多神社の祈年祭と同じく祭神の箸をヌルデで作成します。また、木材を複数個所削り、削りきらず垂らした状態にした「削りかけ」と言われる小正月に用いられる飾り又は祭具の一種がありますが、削りかけの材としてヌルデが多くの地域で用いられています。なぜ、ヌルデであるのかは不明ですが、柔らかく加工しやすいという特性が関係していると思われます。

出典:日本有用樹木誌_伊藤隆夫/佐野雄三/安部久/内海泰弘/山口和穂
出典:岐阜県の祭り・行事_岐阜県環境生活部県民文化局文化伝承課


〇SDGs学習の発展可能性
 人の生活に身近な植物であるヌルデは、虫こぶからのタンニンの抽出や材の柔らかさといった特徴から多くの地域で多様に用いられてきました。身近な植物に目を向けて、代々受け継がれてきた自然素材の利用と、生物が持つ様々な機能を再認識する事で、新たな持続可能な発展の手掛かりを見つける事ができるかもしれません。